Weak Point 2



薄暗い路地に面した古びたドアを開けるとすぐに 階段が地下に続いていた。

奥から部屋の明かりが漏れ、 数人の話し声が聞こえる。

ゆっくりと、階段を下りると、
部屋のドアの前に、見張りが一人 退屈そうに立っていた。


「あの、すいません。」

「誰だ?」

場違いな女の声に、見張りの男は眉をひそめる。


「窃盗団のアジトはこちらでしょうか?」

「はぁ?!なんだテメェ!・・・うっ・・・」

いつの間にか、背後に回り込んだゾロが 男を気絶させる。


「正面切って、聞く奴がいるかよ!」

「結構、上手くいくんですよ。」

たしぎは平気な顔で答える。

「どこが!?」

バタン!ドアを開けると、廊下の騒ぎで
何事かと臨戦態勢の窃盗団が、待ち構えていた。

「ほらな。このあり様だ。」

「いいじゃないですか!これで、聞く手間が省けました。
 皆さん、窃盗団ですね。」

たしぎは、躊躇なく部屋に足を踏み入れる。


「なんだぁ?てめえら!」

ボスと思われる大柄な男が、部屋の奥に陣取り、 ソファにふんぞり返っている。

倉庫のような部屋のあちこちに 酒を飲んでいたのか、空いた酒瓶が転がっている。


隅の方に、無造作に置かれた刀が目に入った。

鞘から刀身が出かかっているものや、抜き身のままの刀もある。


扱いの酷さに、たしぎは眉をひそめる。


「あなたたちに、刀に触れる資格はありませんね。」

静かに時雨を抜いた。

「海軍です。観念しなさい。」


海軍といったところで、制服姿でもない二人を見て、 盗賊達に、焦る気配はなかった。

「へへ、刀相手にゃ、これで十分だ。」


ガチャ。

にやにやしながら、盗賊達は、一斉に銃を取り出した。

「おい。」

入り口で、様子を見ていたゾロが声をかけた。

何かに気づいたように、 すっとたしぎが身を屈める。


バシュッ!

「うわぁ!」
「ぎゃっ!」

叫び声をあげて、盗賊達がバタバタと床に転がる。


足や腕に、ゾロの斬撃を受け、のた打ち回っている。

「痛ぇ!」
「ちきしょ〜!」

肩口を押さえながら、ゾロに向かって発砲しようとする男の 手を、たしぎは踏みつける。

「くやしいですが、いつ見ても見事ですね。」

「はん。どうする?こいつら。」

秋水を鞘に収めながら、ゾロが聞く。

「縄で縛ってもらえますか?今から応援を呼びます。」


「オレは、研ぎ屋の刀が戻ればそれでいい。  どれなのか見てくれ。」

「わかりました。」


たしぎが、盗品の山に近づいて、検分を始めた。

ゾロは、盗品を縛っていた箱のロープを切ると、
それをつかんで、転がっている賊達を次々に縛り上げる。

「こんな名刀までも!あぁ、これは、業物の・・・」

いちいち感嘆の声をあげるたしぎに、ゾロは呆れた。

「おい、眺めるのは、後にしろ。」
「わかってます!あぁっ!これは、もしかして・・・」

おい、本当にわかってるのか?

刀を取り返した安心感に、少しだけ気が緩んだ。

二人の会話の隙を見て、ドア付近に倒れていた男が 逃亡を図る。


「うわぁああ、殺さないでくれ〜〜!!」

恐怖のあまり、取り乱している。

「あ?ったく、面倒だな。」



ゾロは男を追って、部屋の外にでた。

戦う意思をなくし、ただ己の身だけ助かろうとする者の
捨て身の反撃に、不意をつかれた。

「うわっ!」

ゾロのただならぬ気配を感じて、 たしぎはドアに駆け寄った。

そこには、立ったまま動かないゾロがいた。

「ど、どうしたんですか?ロロノア!」



「今どき、目つぶしなんざ、小癪だな。」

首を振り、痛みを飛ばし、そのまま階段を駆け上がろうとするゾロを
たしぎは、慌てて引き留めた。

「何しやがる!行くぞ!」


「ダメ・・・」


腕にしがみつくように、たしぎはゾロを強く引っ張っる。


「行っちゃダメ。」


たしぎの必死さに気圧されて
ゾロは足を止め、振り返った。


「何だよ。こんなんなんともねぇ。  逃がしちまっていいのかよ!」

たしぎは、首を振る。

「ちゃんと見えるようになるまで、動かないで!」


「ただの目潰しだ。時間が経てば、痛みも治まる。
 わかるだろ、お前だって。」


「わ、わかります。でも、でも・・・」


ゾロは、腕にしがみつくたしぎの指先が細かく震えているのに気づいた。


はあっと大きく息を吐くと、
ゾロは、一旦天井を見上げるように、顔を向けた。


「わかったよ。」

その場に、腰をおろすと
たしぎの手を引っ張り、隣に座らせた。


「お前の気の済むまで、居てやんよ。」


たしぎを自分の胸に抱き寄せる。


まるで、傷ついているのがたしぎかのように、やさしく包み込んだ。





<続> 




H26.2.18